2026/03/19

【No.138】地方のDXは、戦略ではなく、関係から始めるのが良い

あきたDX通信編集長 伊嶋謙二

――エフェクチュエーションで考える地域DXのリアル

2025年度も「あきたDX通信」をお読みいただき、ありがとうございました。
年度の締めとして、今回は少し俯瞰した視点から、この一年の秋田におけるDXの動きを振り返りながら、地域でDXを進めるうえでの「現実的な進め方」について考えてみたいと思います。

この一年、秋田県内の企業や自治体、大学、金融機関など、多くの方々とDXについて議論する機会がありました。その中で改めて感じたことがあります。それは、地域のDXには三つの特徴があるということです。

◎一つ目は、DXは「デジタル化・IT導入」だけじゃ十分じゃない
◎二つ目は、「人と人の関係性」は思っている以上に重要
◎三つ目は、地域のDXは、「計画通りに進むことがほとんどない」


実はこの三つは、近年ビジネス分野で注目されている「エフェクチュエーション」という考え方と非常に近いものがあります。

エフェクチュエーションとは、未来を予測して計画を立てるのではなく、今ある資源や人との関係を起点に、新しい価値を生み出していく起業家的思考法です。スタートアップ企業の研究から生まれた理論ですが、私はこの考え方が地方のDXの現場と非常によく似ていると感じています。むしろ、地方のDXは、結果としてエフェクチュエーション型にならざるを得ないのかもしれません。

■秋田のDXは「計画」ではなく「出会い」から始まった
私自身、「あきたDX通信」の編集長を務める一方で、IT市場調査の専門家として活動してきました。また2017年には「創生する未来」を立ち上げ、地域での取り組みを続けています。

しかし、当初から「地域DXをこう進めよう」という明確な設計図があったわけではありません。イベントやセミナーを開催し、企業や自治体の方々と対話を重ねる中で、少しずつ仲間が増えていきました。そして、その関係性の広がりの中から、新たな取り組みが生まれてきたのです。秋田のIT企業との連携や、DX関連の団体活動、企業と地域を結ぶプロジェクトなども、振り返ってみれば最初から計画されていたものではありません。

人と人の出会いがあり、「何か一緒にできそうだ」という共感が生まれ、そこから次の挑戦が始まる。そうした連鎖の中で、少しずつ地域DXの活動が広がってきたように思います。


■「今あるもの」から始める
そこで自分を動かしてきた指針がエフェクチュエーションでした。

エフェクチュエーションの代表的な4原則を伝えることにします。
まずエフェクチュエーションには「手中の鳥」という原則があります。つまり、自分がすでに持っている資源から始めるという考え方です。
私の場合、それはIT業界とのネットワークやマーケティングの経験でした。自分が起業する前の大手の調査会社時代から続く企業との関係、業界の人脈、そして人と人をつなぐ活動です。DXというと、AIやクラウドといった最新技術から考えがちですが、地域の現場では、まず「誰と何ができるか」というところから始まることが多い。つまり、技術より先に関係性という資源が存在しているのです。


■小さく始めるDX
エフェクチュエーションの二つ目の特徴が、「許容可能な損失」という考え方です。
最初から大きな成果を狙うのではなく、まずは小さく始める。失敗しても大きなダメージにならない範囲で挑戦を重ねていく。地域のDX活動もまさにこの形です。勉強会を開く。イベントを開催する。企業同士を紹介する。一見すると小さな活動ですが、こうした場の中から新しいプロジェクトやビジネスが生まれることは決して珍しくありません。むしろ、地域ではこうした「小さな実験」の積み重ねが、結果として大きな変化につながることが多いように感じます。


■関係性が新しい事業をつくる
エフェクチュエーションの三つ目には「クレイジーキルト」という原則があります。
これは、さまざまな関係者がパートナーとして参加しながら、パッチワークのように事業が形作られていくという考え方です。地域DXは、まさにこの構造です。企業、行政、大学、金融機関、IT企業。それぞれの立場の人が少しずつ関わることで、新しい取り組みが生まれていきます。
最初から設計されたプロジェクトではなく、関係性の中で徐々に形が見えてくる。これは、大企業のDXとは少し違う、地域ならではの進み方かもしれません。


■弱みを価値に変える
そして4つ目が「レモネード」の原則です。
予想外の出来事や不利な状況を、新しい価値に変えるという発想です。秋田は人口減少や高齢化といった課題が語られることが多い地域です。しかし見方を変えれば、自然や文化、ゆったりした時間など、都市にはない魅力も数多くあります。一時ほど騒がれなくなったワーケーションも、その一つかもしれません。

ブームとしての熱狂は落ち着きましたが、企業研修や地域交流の場として、少しずつ新しい形で活用されるようになっています。派手な話題にはならなくても、都市と地方の関係をゆるやかにつなぐ仕組みとして、静かに定着しつつあるように感じます。

弱みと思われていた条件が、新しい価値に変わる。これもまた、地域ならではのエフェクチュエーション的な発想と言えるでしょう。あまり言いたくはありませんが「秋田は課題先進県」的な逆張りでしょうか。


■DXは「関係性のデザイン」
今年のメルマガでは、「アナログとデジタルの良いとこ取りDX」というテーマを何度か取り上げてきました。
DXは単なるIT導入の話ではありません。人と人のつながりというアナログの力と、デジタル技術を組み合わせることで、新しい可能性が生まれるという考え方です。そして、その進め方として現実的なのが、エフェクチュエーション的なアプローチなのではないかと思います。

今ある資源から始める。小さく試す。仲間を増やす。偶然を活かす。
そうした積み重ねの中で、新しい未来が形になっていく。DXとは技術導入のプロジェクトというより、関係性を再設計していくプロセスなのかもしれません。


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※本稿の参考文献(創生する未来著作)
https://wirelesswire.jp/2020/01/73763/

※エフェクチュエーションについては以下を参照。
https://wirelesswire.jp/2020/01/73752/

---編集長のあとがき---

MA
秋田での地域活動を始めてから、およそ七年が経ちました。
振り返ってみると、最初から計画していたことよりも、出会いから始まった取り組みの方が圧倒的に多かったように思います。そして、その出会いの多くが、新しい挑戦へとつながってきました。
地域DXはまだ始まったばかりです。しかし確実に言えることがあります。それは、秋田でも確実に「関係性のネットワーク」が広がっているということです。
来年度もこの「あきたDX通信」を通じて、秋田の企業や地域で生まれている小さな挑戦や変化をお伝えしていきたいと思います。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

営業スタッフ徒然草

軽い気持ちでAI開発を試してみたら、いろいろ前提が変わりそうだと思った話

皆さん、こんにちは。川本です。
最近、AIを使った開発を少し試してみています。正直なところ最初は「ちょっと触ってみるか」くらいの軽い気持ちでした。

たいしたプロンプトを打ったわけでもありません。
特別な準備をしたわけでもない。
ただ、少しだけWebアプリの開発経験がある。それだけです。

ところが、出てくる結果が想像以上でした。
ざっくりと要件を書くだけでコードが出てくる。
UIもそれっぽく組んでくる。
エラーも修正してくれるし、改善案まで出してくる。

「便利なツール」くらいの感覚で触り始めたのですが、場面によっては"隣に詳しい人がいる"ような感覚です。
これは正直、かなり驚きました。

■実際にいくつかシステムを作ってみた
試しに、いくつか社内向けのシステムを作ってみました。

・プロジェクトの作業計画を管理するWBS管理システム
・営業活動を記録・共有するSFAシステム
・お弁当注文システム

その中で、意外にも一番面白かったのが お弁当注文システム でした。

現状のお弁当注文はかなりアナログです。
お弁当を頼みたい人は、社員玄関付近に置いてある紙に自分の名前を手書きします。
支払いは現金、注文は電話です。

こうした業務は流れが比較的想像しやすいので、システム化のイメージも浮かびやすいテーマでした。


■システム化してみると、発想が広がる
せっかくシステム化するなら、単に「紙を画面に置き換える」だけではなく、選ぶ楽しさや管理のしやすさも持たせたいと思いました。

そこで、複数のお弁当屋さんから選べる仕組みや、注文締切の管理、集計機能も入れてみました。
さらに、お弁当屋さんのホームページにある日替わりメニュー表を取り込む機能まで作ってみると、思った以上に形になってしまいました。

もちろん、現状の運用は限られた条件の中で工夫して回っているものなので、単純に比べられる話ではありません。
ただ、少し触ってみただけでも、ここまで発想が広がるのかというのは、自分でもかなり驚きでした。


■ただ、ここで一つ問題が出てきました
システムはできたのですが、 運用の設計をほとんどしていなかったのです。

誰が管理するのか。
注文の締切は誰が決めるのか。
チャージや支払いの管理はどうするのか。
お弁当屋さんとのやり取りはどうするのか。

「システムはあるけれど、じゃあ実際どう回すの?」
という部分が、まだ整理できていません。

AIで開発スピードが上がると、
"作ること"よりも"どう運用するか"の方がボトルネックになる。

そんなことを、身をもって体験しました。


■この経験を通じて思ったこと
この経験を通じて、開発のことだけでなく、営業の役割についても考えさせられました。

AIによって"作る"スピードが上がると、
これまで以上に「何を作るべきか」や「どう使うのか」を整理することが重要になります。

営業もまた、お客様の要望をそのまま持ち帰るだけでなく、
課題を整理し、優先順位をつけ、最初の一歩を一緒に考える役割が強くなっていくのではないかと思います。


■AIは営業を奪うわけではない
AIは調査もしてくれますし、資料の下書きも作ってくれます。
つまり、営業の「作業」は確実に減っていくと思います。

その代わりに残るのは、

・課題を見つける
・解く順番を考える
・関係者を巻き込む
・実際に使われる形にしていく

といった部分です。

AIによって仕事の進め方は変わっていくと思いますが、
仮説を立てて、試して、改善するという仕事の本質は、むしろ重要になっていくのではないかと感じています。


■最後に
軽い気持ちでAI開発を試してみたら、想像以上にいろいろなことを考えさせられました。

システムはすぐできた。
でも運用はまだできていない。

技術の進化と同時に、
仕事の進め方や役割も少しずつ変わっていくのかもしれません。

そんなことを感じている、今日この頃です。



<DXに関するお問合せ先>
 エイデイケイ富士システム株式会社
 DXセンター DX担当までお申し付けください。
 TEL:018-838-1173
 Email: dx-lab@adf.co.jp

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