DX実現事例の紹介

DX実現事例の紹介

2025/06/05

DXリーディングカンパニーを訪ねて 6回目

秋田県秋田市 ユーティーケー工業株式会社

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"進化する製造業"への必須条件
DXで変える製造業の次世代モデル

ユーティーケー工業は、愛知県豊川市に本社を持つ「宇都宮工業株式会社」の姉妹会社として、1989年に秋田県秋田市七曲台に工場を設立した。秋田に根ざしながらも、急速に変化する製造業の環境に適応し、DXを取り入れた業務改革へと踏み出している。ユーティーケー工業がどのようにDXを実践し、次の成長フェーズへ向かっているのかをご紹介したい。(上記写真は2025年4月 秋田市のユーティーケー工業前にて取締役岡田充美氏、製造部部長菊地和満氏

自動車から住宅へ。秋田進出と事業転換 

愛知県豊川市で創業した同社が、秋田に工場を設立するに至った理由は何だったのだろうか。1989年当時はバブル景気の最盛期で、愛知県には自動車関連企業が多数集積していた。仕事には困らない一方で、優秀な人材は大手企業に流出し、中小企業にとって人材の確保は非常に困難な状況だった。 

そうした中、同社の会長は知人を通じて「いい場所があるから出てこないか」と秋田への進出を打診される。人材確保を重視していたこともあり、新たな地で事業を始める決断を下したという。愛知県と秋田県の両県からの支援や人材の斡旋も後押しとなり、秋田での工場設立に至った。 

設立当初、ユーティーケー工業は自動車部品の金型製作を主力とする工場として立ち上げられた。しかし、物流コストの課題や採算確保の必要性から、1990年以降は量産体制の構築にも取り組み始める。ところがその後、日米間の自動車摩擦やバブル崩壊の影響により、自動車の輸出台数が大幅に減少。多くの自動車メーカーが生産拠点を海外へ移転したことで、国内での部品需要が急減し、同社も非常に厳しい状況になった

そうした中、大手住宅メーカーD社と接点を持つ。D社は当時、住宅の工業化による工期短縮やコスト削減を目指しており、ユーティーケー工業の技術力が評価された。これをきっかけに住宅部品の受注が増加し、2003年頃には住宅関連製品の製造が同社の主力事業となる。現在では、住宅関連製品が売上の96%以上を占めている。

D社との取引を通じて、他の建材メーカーやサプライヤーとの関係も広がり、営業活動の幅が大きく広がった。さらに、地元にある住宅関連製品メーカー工場T社との取引も実現し、もともと持っていた技術を活かして雨どい部品などの金型製作も手がけている。地元とのつながりも、着実に深まりつつあるようだ。

日報のデジタル化が変えた現場のスピード感


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ユーティーケー工業株式会社 取締役 岡田充美氏


そんなユーティーケー工業だが、あるきっかけを機にDXへの取り組みを本格化させることとなった。創業当初から手書きで行っていた作業日報や月次集計業務において、データ処理の遅さに課題を感じ始めたのが、その出発点である。詳細なデータが把握できるのは3ヶ月後という状況では、現場の動きをリアルタイムで把握することができず、迅速な判断や対応が困難だった。

「多くの損失を見過ごしているのと同じです。そうした損失を事前に防げなければ、製造業が競争を勝ち抜くのは難しいと思いました」と岡田氏は振り返る。

こうした課題を解決するため、ユーティーケー工業にとってリアルタイムでの状況把握は喫緊のテーマとなり、デジタル化の推進が急務となった。デジタル化にあたっては、システム会社との協業が不可欠であり、当初は宇都宮工業を通じてつながりのあった愛知県のシステム会社に協力を依頼。秋田まで訪問してもらいながら運用を進めていた。

しかし、トラブル発生時の対応が遅れがちで、月に一度しか現場に来られない体制では業務に支障をきたすことも少なくなかった。より柔軟かつ迅速な対応が可能な地元のパートナーの必要性を感じ、秋田市のエイデイケイ富士システム(ADF)社との協業に踏み切った。

最初に取り組んだのは作業日報のデジタル化である。業務アプリ作成ツール「Platio(プラティオ)」を導入し、手書きからスマートフォンによる入力へと切り替えた。これにより、従業員が各自のタイミングで日報を入力できるようになり、入力のタイミングに関する制約が解消。処理時間も大幅に短縮された。

さらに、クラウド上にデータを保存することで、リアルタイムでの情報共有が可能となった。セキュリティ面やデータ容量に関する課題もクリアし、月末の実績を翌月の初日には把握できるようになったという。

「これまでとは劇的に変わりました」と岡田氏は語る。まさに、業務の見える化とスピード感の向上という二つの課題が、一挙に解決された結果となった。


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Platio画面


若手×ベテランの化学反応__デジタル時代のものづくり教育

Platioの導入当初、社内に混乱はなかったのだろうか。若手社員はこうした新しいシステムや変化に対する適応が早く、日報データの集計作業にも柔軟に対応しているという。一方で、年配の社員にとっては、新しいツールの習得に戸惑う場面も少なくない。

しかし、業務の合理化や改善に向けた視点・考え方においては、むしろ年配層のベテラン社員の方が一歩先を行っているようだ。

「デジタル化、いわゆるDXの推進においては地元のADF社に伴走していただいていますが、最終的に方向性を決めるのは、あくまでも現場の私たちです。ユーティーケー工業として"どうありたいか"というビジョンを明確に描くことが重要です。その構想が明確になれば、さらなるデジタル化の実行スピードも加速していくと期待しています」(岡田氏)

ユーティーケー工業のものづくりの根底には、「トヨタ生産方式(TPS)」がある。この方式は、世界中で注目されてきた製造手法で、徹底したムダの排除と生産工程の合理化を追求する考え方に基づいている。シンプルであるがゆえに問題の所在を明らかにしやすく、アナログ的に見えながらも、効率的なものづくりを支える重要な思想でもある。

現在、同社ではこの「トヨタ生産方式」を改めて学ぶための社内講座を開設する準備を進めている。若手社員に、ムダを「ムダ」として見抜く目を養ってもらうことが目的だ。日々の業務の中で物事を正しく見る視点や、必要のない工程を見極める思考を身につけることが、DX時代の基礎となる。

そのうえで、デジタル技術をいかに活用していくかが次なるステップである。アナログ的な視点とデジタルの力を融合させることで、ユーティーケー工業はより強靭な企業体へと進化していくことを目指している。

「こちらから課題を提示し、それに対して若手社員の皆さんがどう応えるか。その姿勢や成長を見るのが楽しみですね」と岡田氏は語った。

システム化で目指す次のステージ__社内外への「見える化」へ

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ユーティーケー工業株式会社 製造部部長 菊地和満氏


今後、さらなるデジタル化の進展が期待されるユーティーケー工業。その展望はどのようなものだろうか。現在、同社では全社的なシステム化を推進するため、専任のプロジェクトチームを発足。製造部部長の菊地氏を中心に、段階的な展開が進められている。

現時点で取り組んでいるのは、生産管理システムの構築である。グループ会社である宇都宮工業ですでに導入されているIoT機器を活用しつつ、ユーティーケー工業独自の新たなシステムを目指している。最終的には、すべての製品品番に対応した管理体制を実現し、受注から生産計画、在庫管理、実績確認までを一元的に「見える化」するプラットフォームの構築が目標だ。

さらに将来的には、ユーティーケー工業と宇都宮工業の間で、生産実績などの情報をリアルタイムで共有できる仕組みを構築する予定だ。月に一度行われている生産調整会議にもこのシステムを組み込み、受注から出荷に至るまでの全プロセスをデジタルで連携させることで、グループ全体としての業務効率化と品質向上を図っていく。

「これまで"当たり前"だと思っていた考え方や仕組みが、大きく変革されていく瞬間には、非常にやりがいを感じます。本来であれば、ユーティーケー工業が宇都宮工業の技術をただ継承するのではなく、自らの課題認識に基づいて新たなシステムを構築し、先導していくことが理想だと考えています」(岡田氏)

実際、ユーティーケー工業で現在開発が進められている生産管理システムは、宇都宮工業でもまだ導入されていない先進的な取り組みだ。完成後には、宇都宮工業に対してプレゼンテーションも予定されており、ユーティーケー工業がグループ全体における東日本の製造拠点として、シナジー創出の中心的な役割を果たす姿勢がうかがえる。

ユーティーケー工業の取り組みは、製造業におけるDXの本質が単なるシステム導入や業務効率化にとどまらず、「現場起点の課題発見と改善」という文化を育むことにあることを示しているのではないだろうか。本事例が、同様の課題を抱える製造業界にとって、DX推進の一つのヒントとなることを期待したい。



編集・監修:創生する未来編集部 執筆:中野友香

企業プロフィール

社名

ユーティーケー工業株式会社

代表取締役社長

土井 昌司

住所

秋田県秋田市河辺戸島字七曲台120番地18

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